9 和を貴しと為す
論語に、「礼の用は、和を貴しと為す」という言葉があります。これは、「社会秩序を維持するためには、日常の礼儀作法から様々な儀式を厳格に行うことが重要ですが、厳格に運用しすぎると堅苦しくなるので、和らぐことが大切である」という意味です。春秋戦国時代においては、戦争と混乱が常態化していたので、社会秩序の維持は重要なことであったはずです。そのために、孔子は礼儀や礼節を重んじて政治を行うべきと諸国の王に説いていったのです。
礼儀とは、人間関係や社会生活の秩序を保ち、人として守るべき行動を指し、礼節とは、表面的な付け焼き刃の礼儀ではなく、心が伴った言動といった道徳的な意味合いがあります。どんな時代においても、他人との人間関係を良好に保ち、組織の秩序を維持するためには、礼儀や礼節が大切なのです。
会津藩では「什(じゅう)の掟」があり、6歳から9歳の子供たちに次の内容を徹底して教えていました。
一、年長者の言うことに背いてはなりませぬ
一、年長者にはお辞儀をしなければなりませぬ
一、嘘言を言うことはなりませぬ
一、卑怯な振舞をしてはなりませぬ
一、弱い者をいじめてはなりませぬ
一、戸外で物を食べてはなりませぬ
一、戸外で婦人と言葉を交へてはなりませぬ
ならぬことはならぬものです
社会秩序を良好に維持するためには、幼いころから「礼」に対する教育が大切であると考えられていたのでしょう。
聖徳太子が604年に制定したとされる「17条憲法」の第1条の冒頭に、「和をもって貴しと為す」とあります。これは、「物事を進める際には、お互いの心が和らいで協力することが貴いのであって、これが根本的態度でなければならない」ということです。
この17条憲法の制定にあたって、聖徳太子は論語を学んでいたのではないかという説がありますが、十分に考えられます。論語だけではなく様々な書物を参考にしながら、これからの日本の国づくりに必要な根本的な考え方を、17条憲法に記したのではないでしょうか。そして、この「17条憲法」の「和」の精神が日本の国の礎になっていくのです。
組織が発展していくためにも、組織の秩序を維持するための「礼」と、職員同士の「和」が重要になります。意見の違いは当然にあることを前提としながら、和の精神でまとめ上げることが大切であるということです。これは、仕事だけに限らず、家庭や地域での活動の中で、「礼」と「和」のバランスを上手にとることが大切であるということではないでしょうか。