5 故きを温ねて新しきを知る
ふるきをたずねてあたらしきをしる
本日ご紹介する論語は「故(ふる)きを温(たず)ねて新しきを知れば、以て師と爲(な)る可(べ)し」です。
この論語の意味は「昔のことをよく調べて学ぶことで、現在や未来に役立つことがよくわかるようになる。これができて初めて人の師となれる」ということです。
「故きを温ねて新しきを知る」ということは、なかなか難しいものです。私たちは、古いものに価値を見出すことがなかなかできないのです。古くなったものは捨て、新しいものを購入することに慣れているからです。冷蔵庫や洗濯機、テレビやパソコン、携帯電話など、形あるものはいつか壊れます。自動車も10万キロ走ったり、10年経過すると、部品交換が必要となり買い替えることになるでしょう。あらゆるものに、ライフサイクルがあって、古くなったものは買い替えることになります。私たちの生活は、こうした消費の文化になっているのです。
しかし、人の人生はどうでしょうか。人には心があり、物と違って買い替えることができません。一人ひとりが、かけがえのない人生を送っているのです。そして、論語に代表されるように、人間の心は、2500年経過しても変わらないのです。「故きを温ねて新しきを知る」ということは、先人の知恵に学ぶことを意味しています。高齢者から学ぶこともあるでしょう。書物から学ぶこともあるでしょう。昔の物事をよく調べてみると、現在や未来に役立つこともたくさんあると思います。
高齢者は、様々な時代の代弁者です。戦争体験や戦後苦労した話をいっぱい聴いてください。昔の習わしや遊びをいっぱい聴いてください。そして、生きた日本の歴史を学んでください。身近に高齢者がいなければ、良い本を読んでください。新渡戸稲造の「武士道」、渋沢栄一の「論語と算盤」、安岡正篤の「論語の活学」など、日本には、長きにわたって読み継がれている良書が沢山あります。易しい本も良いですが、難しい本を読んで自分が理解できるまで何度も読むことにチャレンジしてみてください。本は心との対話です。
古き良き時代を回顧するのではありません。未来を拓くために学ぶのです。日々、そういうことを学んでいると、いつの日か、自分が後輩を指導する立場になったときに、職場の同僚や後輩、知人や子供たちに人生の羅針盤を示すことができるようになります。それが「故きを温ねて新しきを知る」ということだと思います。そう考えると、皆さんが仕事をしている職場は、学びの宝庫と言えるのではないでしょうか。何ごとも、考え方次第です。