100年来の由緒ある寺院(古民家)を、障がい福祉事業に活用:利生院
<株式会社でかぬーて>
社会貢献型活用事業のサポートで歴史ある建物が再生
~福岡発:空き家の福祉的活用を進める取り組み~
障害福祉サービス事業所「利生院」
福岡市早良区の商店街からわずか数分の場所で、緑が多く眺めもいい丘の斜面に、障害福祉サービス事業所「利生院(りしょういん)」があります。ここでは2016年(平成28年)11月から、株式会社でかぬーてが障がい者の生活訓練事業を運営しており、精神障がい、発達障がい、知的障がいを抱えた方が自立した日常生活を送れるようにするための訓練プログラムを提供するとともに、生活等に関する相談・助言を行っています。
ご利用者はここに来て、書道や英会話の教室、お菓子づくり、地域探訪などのプログラムに参加することを通じて、地域で自立した生活を営む訓練をしています。
プロフィール
- 運営団体:株式会社でかぬーて
- 施設名:障害福祉サービス事業所利生院
- 事業内容:障害福祉サービス(生活訓練)
- 開設時期:2016年(平成28年)11月
地域の由緒ある120年以上の建物を活用
福岡市早良区に建つ天台宗のお堂、利生院。創建は不明とされていますが、敷地内に元文3年建立の碑があることから、江戸時代享保の前、1738年には庵を構えていたと思われます。
現在の建物はお堂と主屋に分かれており、築120年以上は経っています。
350年もの間、地域を見守り続け、地域に愛された、このお堂の最後の堂守さんが亡くなったのが8年前。「利生院の土地と建物を地域貢献や社会貢献に使って欲しい」という故人の遺志がここに実現することとなり、2016年(平成28年)11月1日、精神障がい者のための生活訓練事業所として生まれ変わりました。
長い歴史に加え、堂守さんの細やかな心遣いと丁寧な手遣いでとても大事にされてきた建物や庭は、未だ気品を保っており、その改築作業には何よりも庭と建物の調和が求められました。
持ち主や建築士などと細かい協議が行われ、その結果、古民家の持つ重厚さを十分に活かし、庭と建物の調和を大切にした、木と漆喰がふんだんに使われた和モダンのテイストに統一された室内は、窓の外に広がるお庭の景色とも調和し、とても落ち着く空間へと仕上がりました。
心に不安を抱える利用者の方々、利生院とずっと慣れ親しんできた近隣の方々にも好評とのことです。
賑やかな街から少し入った路地の奥に佇む利生院。森に囲まれて緩やかに流れる時間の中で、お堂の不動明王にも見守られつつ、少しずつ癒されていく。そんな素敵な施設となっています。
これまで地域の集いの場であったことも生かして、利用者だけではなく、地域のさまざまな世代が交流できる場にもしたいとの思いで運営されています。
改修前の玄関
元文三年と記された碑
改修前の主屋
改修前のお堂
利生院が開設された経過
ここが障がい福祉サービス事業所として活用されるようになったきっかけとして、「社会貢献型空家バンク事業」(社会貢献型活用事業)の取り組みが大きく貢献をしています。
福岡市では、一般社団法人古家空家調査連絡会と福岡市社会福祉協議会が共同事業体を結成し、2015年度(平成27年度)から空家の社会貢献型活用事業を展開していました。その後、その延長線として「社会貢献型空家バンク事業」を2019年(令和元年)5月に立ち上げています。
利生院は主屋(庫裡)とお堂に分かれており、主屋は居住用のスペースとして使用されていました。障がい福祉サービス事業所は主屋で運営されており、お堂は敷地内の別棟となっています。
利生院は街の中心からほど近い、需要の高い住宅地にあり、宅地や集合住宅への移行希望が多い場所にありましたが、居住していた方の思いや持ち主の理解、建物の歴史と希少性に基づく地域住民の願いなどが勝って、社会貢献型活用が実現したと考えているそうです。
所有者からの相談を受けた共同事業体が、2016年(平成28年)1月に社会貢献型活用を行う事業者を募集したところ、この近隣で障がい福祉事業を実施したいと考えている福祉事業者からの連絡が同年3月にあり、両者のマッチングが成立。その後、権利関係の確認、用途変更手続き、改修計画の検討、地域説明会を経て、同年11月に開所となりました。建築基準法や事業所としての基準に適合した運営を行うため、サブリース方式を活用して、古家空家調査連絡会が実質的なオーナーとなっています。
古民家を改修して福祉事業所を開設する取り組みでは、非常に短い期間で開設した事例です。
【相談から活用までの経過】
- 2016.1 オーナー様より活用相談
- 2016.2 活用事業者選定
- 2016.3 障がい福祉サービス事業者より相談、現地内覧
- 2016.4 福岡市役所建築審査課訪問、住宅→福祉施設への用途変更につき相談、賃貸借契約書作成
- 2016.5 司法書士と打合せ(権利関係)、建築士と現地打合せ(用途変更)
- 2016.6 建築士、オーナーと現地打合せ(改築計画、スケジュール)
- 2016.7 着工式
- 2016.8 ワークショップ開催(漆喰塗り)
- 2016.9 工事完了、引き渡し、地域説明会
- 2016.10 開所式
- 2016.11.1 開所
玄関から奥へ
和室
庭を望む
台所
開所後の活動
空き家の福祉的活用を進める「社会貢献型空家バンク」の取り組み
「社会貢献型空家バンク」の2つの運営主体のうち、一般社団法人古家空家調査連絡会は、「家屋のひとつひとつを大切にし、所有者が望むかたちでの家の再利用を進め、最終的には、地方の疲弊や過疎化・独居老人の増加に伴う空き家と古家の増加に歯止めをかけ、社会への貢献をすること」を目指して、2015年(平成27年)に設立されました。
税務、法務、建築、福祉の専門家を揃えて、古家空き家のソフト面、ハード面の問題を解決に導くことで、中古住宅の流通促進と廉価での住まいの提供を目指しています。
一方、社会福祉法人社会福祉協議会は、地域包括ケアの仕組みづくりの一環として、地域でのインフォーマルネットワークの構築や自助と互助(共助)の強化、社会的孤立の解決とつながりの再構築など、多様な形での助け合い活動の創出・拡充に取り組んでいます。
見守りの仕組みづくり(ふれあいネットワークなど)、多様な居場所づくり(ふれあいサロン、地域カフェなど)、生活支援活動(ご近所おたすけ隊など)の立ち上げ支援・活動継続の支援をはじめ、地域の福祉施設・事業所、医療機関、企業、大学といった多様な主体と協働した新たな地域福祉活動の展開に向けた支援などに取り組んでいます。
この2つの組織がそれぞれの持ち味を生かし、連携して空き家の活用を図るために中心となって取り組んできたのが、福岡市での社会貢献型活用事業であり、その発展形態として現在の「社会貢献型空家バンク事業」が運営されています。
今回紹介した利生院の事例の他にも、障がい者のシェアハウス「なかしまホーム」の設置、フリースクールとして活用した「岩田商店」等、空家の相談に対して最適な活用を提案、サポートするワンストップ対応を行っています。
物件詳細データ
物件について
- 所在地:福岡市早良区高取
- 構造・階数:木造、平屋の一部・2階建ての一部(1階98㎡、2階98㎡を使用)
- 建設時期:不明(100年以上)
- 改修工事:有
資金について
- 財源・運営資金:障がい福祉事業報酬のみ。利生院の改修費用も自費で負担。
- 運営費補助金:無
- 設置費補助金:無