秦野市の通いの場事業:多世代交流ひろば「みんなのて」 ほか
<秦野市>
市内の各地に多世代交流や子育ての拠点が誕生
~秦野市の取り組み~
総務省が実施している住宅・土地統計調査によると、秦野市の2018年(平成30年)の空き家の数は1万170戸で、この20年間で約1.7倍に増加しています。
また、市が2019年度(令和元年度)に行った調査では、把握した空き家1100戸のうち約4割の460戸について管理が行き届かずに、屋根の建材が隣家に飛散したり、庭木が敷地外に飛び出したりと、何らかの問題がありました。
市では空き家の活用策の一つとして地域活動拠点としての活用を推進しており、市の広報紙の空き家問題の特集号でも紹介をしています。
担当者(秦野市高齢介護課 木下様)にお話を伺いました。
特に空き家活用を前面に出してはいなかったが…
「活動拠点設置の取り組み」について教えてください。
木下 実は空き家の有効活用を前面に出していたわけではありません。
市域に通いの場のような拠点をたくさん作ることを目的に場所を探していたところ、地域から空き家の提供をいただいたという経緯です。
鶴巻北地区の多世代交流ひろば「みんなのて」の例では、もともと小田急線の南側に活動拠点が1つあり、「北側にも集まれる場所があるといいね。作るなら子どもから高齢者まで誰でも使えるものが欲しい」という考えが地域にありました。
多世代交流ひろば「みんなのて」。一戸建ての空き家を活用している。
この日は中から子どもの声が聞こえてきた
月水金は子育てサロン、火木は高齢者サロンとして活用している
多世代交流ひろば「みんなのて」詳細データ
物件について
- 所在地:秦野市鶴巻北
- 構造・階数:木造2階建
- 建設時期:不明
- 改修工事:無
資金について
- 財源・運営資金:子育て支援事業委託費(子育てサロン)
- 運営費補助金:高齢者介護予防補助金(高齢者サロン)
- 設置費補助金:無
その他
- 開始年月:2019年(平成31年)4月
- 活用内容:1階は高齢者サロン・子育てサロン、2階は事務室&多目的室
他の地域では場所を見つけるのに相当苦労して、やっと見つかったという話もよく聞きますが、秦野市ではどうですか?
木下 鶴巻地区には自治会や地区社会福祉協議会などで構成する「住んでよかったまちづくり協議会」という組織があって、日頃から商店会や商工会ともつながりがあります。
同じ鶴巻北地区のつどいの場「嬉楽」については、駅の近くで探していたところ、「あそこがある」という情報は早く入りました。ただ、借りる手続きについては時間がかかったと聞いています。
また、活用には至りませんでしたが、市の空き家担当から「拠点としてどうか」と物件の情報提供を複数もらっています。
つどいの場「嬉楽」。元お好み焼き屋の空き店舗を活用している。
つどいの場「嬉楽」詳細データ
物件について
- 所在地:秦野市鶴巻北
- 構造・階数:SRC4階(活用場所は空き店舗の1階)
- 建設時期:不明
- 改修工事:ほとんどなし(エアコン交換と水まわり程度)
資金について
- 財源・運営資金:野菜や手作り品などの販売による売上、利用料、場所貸し収入
- 運営費補助金:無
- 設置費補助金:無
その他
- 開始年月:2019年(平成31年)4月
- 活用内容:高齢者サロン、小中学生向け学習スペース、貸しスペース
活用できそうになったとき、市役所が間に入って調整することはありますか?
木下 空き家の所有者と使いたい側それぞれに連絡して、会っていただく調整はしています。ただし、実際の契約については双方で直接交渉してもらっています。
活動量に応じた補助
ご紹介いただいた4件の事例のうち、3件については市からの補助が出ているようですが?
木下 はい。介護保険事業の特別会計から介護予防活動に対して補助があります。家賃やスタッフへの報酬には使えませんが、その他運営に係る費用について補助しています。
場所が空き家かどうかや場所の大きさには関係なく、実施回数に応じて金額が変わります。
空き家を借りて活動する場合は、家賃の補助がないと継続するのが難しくないですか?
木下 地域では家賃だけでなく光熱水費の支出にも苦労しているようです。
自治会が援助したり、地元の野菜や作品を販売したり、サロンの利用料を設定したり、場所貸しなどの工夫をしたりしていると聞いています。
今までは家賃を払って通いの場をつくるという例がなかったのですが、今後家賃を払う場所が増えてくれば、違った支援の仕方も考えなければならないと思います。
家賃なしで通いの場に貸していただける空き家が多く出てくるとよいのですが。
鶴巻北の「みんなのて」は、月・水・金は子育てサロン「ちっちゃなて」を市の委託事業として実施しており、火・木は高齢者サロン「おっきなて」を介護予防・日常生活支援事業として補助しています。
この地域に子育て支援センターがなかったため、両方の事業で活用しています。
活動を支える地域力
鶴巻地区はもともと人のつながりが厚い地域なのですか?
木下 市内では比較的転入者が多い地区です。新しい人が多いので、逆につながりを持ちたいと考える方が多いのかもしれません。
新しいと言っても30~40年は経っており、地域の活動は盛んな地域です。
市として活動拠点は各地区1か所という方針はあるのでしょうか? また、ない地域には重点的に設置を働きかけているのでしょうか?
木下 特にそのような方針はなく、できるところからという考えです。
なお、各地区には生活支援コーディネーターを一人ずつ配置しており、活動の一環として地域に通いの場を作る支援をしています。通いの場は、歩いて行ける範囲に作りたいという考えで、活動したい人と場所とのマッチングができたところから開始しており、補助も年限なくやっています。
支援は設置の促進というより、通いの場で実施する内容の支援が重点となっています。
市役所の中で、空き家対策担当との連携は定期的に行われているのですか?
木下 それぞれ新たな動きがあったときに随時知らせています。
本年(2020年、令和2年)12月に市が空き家対策特集号の広報紙を発行しましたが、その中で空き家の1つを高齢者向けのサロンとして活用していることを紹介してもらいました。
市の広報で活用事例として紹介された「はっちゃんサロン」
はっちゃんサロンは空き家の所有者の方から「地域の人に使ってもらいたい」と申し出がありました。完全に無償で使わせてもらっており、所有者の方も一緒に活動に参加しています。週1回、体操や手芸、ミニ講座など、高齢者向けのサロンとして活用されています。
「はっちゃんサロン」詳細データ
物件について
- 所在地:秦野市横野
- 構造・階数:木造平屋建
- 建設時期:不明
- 改修工事:無
資金について
- 財源・運営資金:無
- 運営費補助金:高齢者介護予防補助金
- 設置費補助金:無
その他
- 開始年月:2019年(令和元年)8月
- 活用内容:高齢者サロン
千村さわやか体操クラブ。こちらも何も手を加えていない。
こちらの体操クラブは、県外に転居した所有者から管理を依頼された地元の老人クラブから「使ってもいいと言われているけど、何かないかな」と地域包括支援センターに相談があり、体操を行う通いの場として支援を行いました。
現在は体操だけでなく、茶話会なども行っています。
「千村さわやか体操クラブ」詳細データ
物件について
- 所在地:秦野市千村
- 構造・階数:木造平屋建
- 建設時期:不明
- 改修工事:無
資金について
- 財源・運営資金:無
- 運営費補助金:高齢者介護予防補助金
- 設置費補助金:無
その他
- 開始年月:2019年(令和元年)9月
- 活用内容:高齢者サロン
利用者からの声や周辺からの苦情などは何か聞いていますか?
木下 「近くにあって来やすい」「楽しくていいね」という声は聞いています。空き家だからどうこうということは気にしていないみたいです。
周辺の方からの苦情は特に聞いていません。
拠点づくりに力を入れた結果、空き家を提供してもらえるようになったということで、行政の地道な活動が功を奏した事例と言えるでしょう。
お話を伺っていて感じたのは、住民の意識の高さです。特に鶴巻地区の地域力には市の担当者の方も感心していました。自分たちの拠点を複数持つのは運営面で大変そうですが、自分たちで何かを作っていきたいという気持ちにさせるのは、オープンな方が多い土地柄が関係しているのかもしれません。