グッドデザイン賞受賞!の取り組み:とみくらみんなのリビング ほか
<宇都宮空き家会議>
空き家から「まち」に新たなつながりを生み出す
~宇都宮発:産学官民の取り組み~
地方都市では人口減少などにより空き家が増加しています。宇都宮市も例外ではなく、2013年(平成25年)の調査では空き家率15.9%と全国平均(13.5%)を上回っています。
そのような状況の中、元タバコ屋・駄菓子屋であった建物を再生する取組みが行われ、空き家の活用において2019年度(令和元年度)グッドデザイン賞(公共の建築・空間部門)を受賞しました。
取組みの中心となった「宇都宮空き家会議」の事務局を務める、宇都宮市の担当者(市民まちづくり部生活安心課 空き家・空き地対策グループ 細井様、福田様)にお話を伺いました。
地域コミュニティを生み出すマッチング事業
「宇都宮空き家会議」はどういう経緯で設置された組織ですか?
私たち生活安心課の「空き家・空き地対策グループ」では、これまで市民などから管理不全な空き家・空き地に関するご相談が寄せられた場合は、所有者等に対して特措法(空家等対策の推進に関する特別措置法)に基づく指導等を行い、問題の解決を図ってきました。
しかしながら、指導等を受けた所有者の方々から「空き家を売りたい」とか「管理したいので業者を紹介してほしい」という相談を受けても、行政としては積極的に対応することができず、せっかくの改善機会を失っている状況が続いておりました。
そこで不動産・金融・建設・造園・法曹・大学・NPOなど様々な分野の関係団体と連携を図り、2017年(平成29年)に「宇都宮空き家会議」を設立し、マッチング事業をするようになりました。
マッチング事業はどのように行っていますか?
相談があった場合には、生活安心課が事務局として一旦お話をお受けし、空き家会議で情報を共有しております。空き家会議では相談の内容に応じた不動産事業者や造園業者などの協力事業者を紹介しております。
「空き家をどう活用してよいのかわからない」といった相談にも、空き家会議でプランを提案しており、その走りになったのが「キッズハウス・いろどり」です。
キッズハウス・いろどり(宇都宮空き家会議通信vol.4より)
物件詳細データ
物件について
- 所在地:栃木県宇都宮市戸祭
- 構造・階数:木造亜鉛メッキ鋼板葺2階建
- 建設時期:1965年(昭和40年)
- 改修工事:水回りを多少改修
資金について
- 財源・運営資金:不明
- 運営費補助金:無
- 設置費補助金:無
元々この場所はどういう経緯で?
事業者(一般社団法人栃木県若年者支援機構)からの「子ども食堂として使える場所を確保したい」という相談と、所有者からの「空き家をどうすればいいかわからない」という相談とをマッチングして、「子ども食堂で活用」というプランを提案させていただきました。
福祉的な用途に使うことへの抵抗はなかったですか?
特段抵抗はなく、貸せるのであればという感じで、ここまで問題なく進んでおります。
子ども食堂は地域の大人の方々にも開放しています。子どもを見守りながらという意味では、地域コミュニティの形成にも役立っていると思います。
グッドデザイン賞を受賞した取り組み「とみくらみんなのリビング」
とみくらみんなのリビング。グッドデザイン賞は宇都宮大学の発案だそうだ。(宇都宮空き家会議通信vol.6より)
物件詳細データ
物件について
- 所在地:栃木県宇都宮市東峰町
- 構造・階数:木造平屋建
- 建設時期:1973年(昭和48年)
- 改修工事:内装及び外装の改修
資金について
- 財源・運営資金:自治会負担,企業協賛
- 運営費補助金:空き家等対策地域活動費補助金
- 設置費補助金:無
わかりました。次に空き家会議が正式に発足してから入ってきた相談が、こちらの「とみくらみんなのリビング」ですか。
この事業は自治会からのご相談で始まりました。
建物はそれまで自治会の集会所機能を持たせて利用されていたようですが、使っていて雨漏りの状況になったので、一旦使うのをやめていたようです。その間、近くのコミュニティセンターを利用されていたようですが、国道を渡る必要がありました。
ここの自治会には高齢者が多く、国道を渡るのが不安だという声があり、地域内に1つシンボルとなる施設が欲しいというのが相談の始まりです。
似たような声を聞いていて、何かみんなでやらなければという話になったのですか?
たまたま我々に自治会から空き家についてのご相談があり、また事業者(株式会社ピースノート)からも空き家活用の事業に取り組んでいきたいといった相談もあり、それではということで、宇都宮大学の先生や事業者、地域を交えてプロジェクトを作り上げていきました。
提案までのスピード感が非常に大切
2019年(平成31年)の1月に、総務省から「自治体の空き家対策に関する実態調査」の報告が公表されました。多くの自治体では空き家が特定空き家にならないようにする対応で手一杯で、とても活用まで力を注げない、空き家予備軍にまで手を出す余力はないという調査結果が出ていましたが、宇都宮市ではどうですか?
確かにそういう傾向が本市でもありますが、我々は3本柱で取り組んでいます。①空き家の適正管理、②空き家の発生抑制、③空き家の活用の3つです。
②の発生抑制と③の活用を空き家会議と行政で、①の適正管理は行政が責任を持って実施しています。どうしても適正管理に関する業務がメインになりがちですが、発生抑制や有効活用に関してもセミナーの開催などを地道に進めています。
空き家会議に「こういう活用をしてくれないか」とか「活用したいが、よい空き家はないか」といった相談の件数はどれくらい来ていますか?
空き家会議には、年間100件程度の相談が寄せられ、そのうちの2割弱が空き家の活用に関する相談です。
特に相談として多いのは不動産の売買・賃貸、次に空き家の管理に関する事業者のご紹介です。そのほか、自治会で空き家を活用したいといった相談もあります。
マッチングを成功させるコツはありますか?
行政に寄せられる相談の中には「そもそもどうすればいいのかわからない」という相談もありますが、それを「わかりました」と受けて話を進めているうちに、所有者の気持ちが切れてしまうというか、「こういう案がまとまりました」と提案しても「もういいです」とお断りを受けることが多々あります。ですので、スピード感をもってやるのがポイントかなと思います。
相談について、空き家会議のメンバーで情報共有はしていらっしゃいますか?
不動産業者や造園業者のご紹介に関しては、それぞれの業種の団体(宅建協会、造園組合)と情報を共有して、対応できる業者がいればご推薦していただく流れになっております。活用に関しては、それぞれの会員とコアメンバーで情報共有させていただき、その中で必要なメンバーを増やしていくイメージです。
造園組合が入っているというのは、ほかに比べて特徴的な気がします。
本市の特徴として、空き家・空き地の敷地内における雑草や樹木の繁茂に関する相談が非常に多いため、その問題に対応すべく、造園組合にもご加入いただいております。
市では、そういう雑草とか家具の処分に対する補助をしていますか?
空き家を解体する際の費用について、一部補助しています。「特定空き家」に判定されたものに対して最大70万円の補助をしています。
空き家会議という、居住支援協議会とは違った組織を作られていますが、ほかの自治体で参考にする場合に、留意すべき点についてはどうお考えでしょうか?
組織を作ったのはいいけれど機能しないというのが一番問題かと思いますので、その辺ではないかと…。
「常に動いてないと」というところでしょうか。あと、たまたま皆さんで「こうしたい」という考えがうまく集まって設置できたのですか?
最初は銀行から「これから増加が予想される空き家を利用しては」とのご提案があり、その話に乗りました。銀行と市とで、空き家対策に関する金融商品のご紹介や、金融機関の窓口で入手した空き家の情報等の共有から始まり、銀行のネットワークを使って徐々に団体を増やしていきました。
そういう仕組みがあることについて、市民の方に情報は行っているのですか?
固定資産税の納税通知にチラシを同封させていただいております。また「空き家会議通信」を作成し、各地区市民センターや出張所に配布しているほか、エリア限定で自治会の回覧も行っております。
これだけカラフルな「空き家会議通信」を作るのは、お金がかかりそうですね。
これは事務局が自前でデザインをしているので、費用を抑えられています。原稿も事務局で書いています。
幅広い取り組みを支える広告料収入
空き家会議の運営については、市から予算がついているのですか?
市からの予算はないです。基本的に協力事業者からの広告料収入で運営しています。
「空き家会議通信」の広告。多くの企業から出稿されている。
広告料収入のみですか。すごいですね。正会員、賛助会員からは会費を徴収しているのですか?
はい。正会員は年間2万円です。賛助会員は金額を特に決めていませんが、2万円だったり3万円だったり、あとは人的な協賛をいただいております。
現在、正会員は市を含め14団体、賛助会員は2団体です。
空き家会議の支出の主な内訳はどうなっていますか?
まず通信運搬費などの事務経費、それから「空き家会議通信」の印刷製本費ですね。
あとは「空き家活用応援隊」の運営資金です。空き家を集会所など地域活動のために活用したいという自治会などに対して、有志による応援隊をそのつど編成して派遣し、地域内の合意形成や物件調査、改修作業などを支援するものです。
以上がメインになっております。予算規模は本当に小さいです。
「応援隊」のメンバーはどうやって集めているのですか?
正会員、賛助会員へ個別にお声がけさせていただいております。あとは民間事業者で物的支援をいただける事業者を個別にあたっています。
メンバーには、どういう役割を持たせているのですか?
「とみくら」の事例では、株式会社ピースノートが賛助会員として、改修時の現場監督をメインに担当しました。実際の改修作業は学生などの若者で、地域の方々にも一緒に参加していただきました。我々事務局はその取りまとめ役で、宇都宮大学の先生にはワーキングや地域の方々との意見交換の場を回していただきました。
「空き家交縁会」というものもありますね。イベントか何かですか?
はい。こちらは地域と若者、事業者などがつながるきっかけづくりを支援するため、各地域で空き家に関連したイベントなどを開催するものです。
実際の開催はまだ1度だけです。「とみくら」の完成を祝って、地域の方々とお楽しみイベントを開催しました。宇都宮大学の学生が企画・運営に携わっています。
今後も何かイベントが発生したときに実施することになると思います。
こちらの生活安心課は、町内会や社会福祉協議会との日頃のつながりはありますか?
社会福祉協議会などとは定期的な連携体制はありませんが、相談の中で「福祉的な利用がしたい」という方もいまして、来年度から本格的に動き始めようとしている案件がございます。
オールカラーで立派なつくりの「宇都宮空き家会議通信」には、多くの企業の広告が掲載されていました。この広告料収入だけで空き家会議の取り組みを支えているというのは、施策として特徴的だと感じました。
少ない予算でこれだけのことができているというのは、しっかりとした居住支援の組織がなく、自治体からの予算もつかないところでは、大いに参考になる取り組みと言えそうです。