空き家が地域のコミュニティースペースに変身!「いずみサロン」
<NPO法人タウンサポート鎌倉今泉台>
子ども・孫世代が戻ってきたくなる魅力ある町を目指して
~鎌倉発:産学官民が連携して広がる空き家対策のネットワーク~
神奈川県鎌倉市の中でも、高齢化率が40%を超えている今泉台住宅地区。
昭和40年代には、大規模な宅地開発で若年層が移り住んだ分譲地でしたが、住民が高齢化し自宅を離れて生活する人が増えるに伴って、空き家・空き地が増えてきたといいます。
しかし近年、同地区を含む産学官民が協働して地域の活性化を図る取り組みが、注目を集めています。
空き家を利用した「いずみサロン」の運営をはじめ、地域のためにさまざまな活動をおこなっているNPO法人タウンサポート鎌倉今泉台の丸尾恒雄理事長にお話を伺いました。
NPO法人タウンサポート鎌倉今泉台理事長・丸尾恒雄さん
プロフィール
- 運営団体:NPO法人タウンサポート鎌倉今泉台
- 事業内容:地域交流
- 施設名:いずみサロン
- 開設時期:平成27年7月開設
空き家を改修し、地域住民に開かれたコミュニティースペースをオープン
「いずみサロン」では、どのような活動をされているのでしょうか。
丸尾 幅広い世代の地域住民が気軽に集えるコミュニティーサロンとして、週4回午後にオープンしています。
カフェも併設していて、お茶を飲みながらどなたでも自由におしゃべりができる場です。
また、約40サークルに所属する仲間同士で練習会・会合の場として使ったり、さまざまな講習会を開催したりするほか、地元のアマチュアアーティストによる写真・絵画のミニギャラリーとしても活用しています。
コミュニティースペースでは会合や講習会がおこなわれている
また1階にはNPOの事務所やキッチンもあります。
もともと2世帯住宅の空き家で玄関が2つあるので、2階部分は1世帯の家族に貸し出しています。
築45年以上の空き家を改修した「いずみサロン」(1階部分)
1階の奥にあるキッチンを使って、料理教室などが開催される
NPOを立ち上げて活動を始めたのは、どのような経緯からでしょうか?
丸尾 背景には、今泉台に住む人々の高齢化があります。
高齢化により地域を離れて暮らす人が増え、それに伴って空き家・空き地が増えてきてしまい、どうにかしなければならないという状況がありました。
ところが町内の自治会では、役員の任期が1~2年で終わってしまうことや、資金面で制限があることから、じっくりと町づくりに取り組むのが難しかったのです。
そこで、安定して長期的な地域活動を続けるために立ち上げたのが、NPO法人タウンサポート鎌倉今泉台でした。
「いずみサロン」は具体的にはどのような経過でできたのですか?
丸尾 住民からいつでも集まれる場所がほしいという要望がありました。
そこで町内にある空き家のうちから、活用できそうな空き家をいくつか抽出しました。
その中から所有者から賃借の承諾の得られた空き家について、町内会、横浜国立大学大学院建築学教室、鎌倉市役所、建材・設備機器メーカーである株式会社LIXIL等の協力を得ながら、この家の活用方法や改修工事の内容等についての検討を重ね、オープンに至りました。
「いずみサロン」ができて、住民の方々からの反応はいかがでしたか?
丸尾 「いずみサロン」がオープンしたことで、住民の活動拠点として非常に喜ばれています。
NPOの会員同士が積極的に交流していることも、追い風になって地域とのつながりがより深まったと感じますね。
いずみサロンは地域住民の交流の場として賑わっている
丸尾 いずみサロンはもともと築45年以上空き家だったのですが、改修工事の費用は寄付や補助金でほとんど賄うことができました。
運営資金に関しては、順調に活動資金が集まっていますから、行政からの金銭的な支援は特に必要ないんです。また、市民と鎌倉市役所との連携も、かなりうまくいっている方だと思います。
というのも、自治体でも住民の意見を必要としていますので、一方的な支援というよりも意見交換という形で私たちのNPOもいろいろなプロジェクトに参画させていただいております。
2017年5月には、国土交通省で開かれた空き家の取り組み説明会でも、今泉台の事例を発表しました。
行政との関係について説明する丸尾理事長
他にはNPO法人としてどんな活動をされていますか。
丸尾 地域の空き地を利用して菜園を作っています。
採れた野菜は、住民の皆さんにも参加していただきながら開催するマルシェに出品しています。
そのほか、空き家・空き地の草刈りや枝払いなどの整備保全や、近隣の住民が参加する文化祭も毎年5月に催しています。
また、NPO活動としてはホームページ運営や、会員約200人に向けたニュースやイベント情報を配信しています。今はコロナ禍ですから、リモートワークの勉強会なども随時開いています。
ソラマメやキャベツなど様々な野菜を作っている
夏祭りの夜店では無農薬野菜が売り切れになるほどの人気ぶりだ
空き家・空き地の実態を把握するために、実地調査のノウハウを構築
独自の「空き家バンク」を作成・運営されていますが、これはどのように行われるものなのでしょうか?
丸尾 「空き家バンク」では今泉台町内にある空き家・空き地の実地調査を行って、持ち主に管理方法などの意向を確認し、地域の資源として利活用を考えて管理を代行しています。
平成24年から毎年5人の調査メンバーが今泉台にある約2000戸を回り、空き家かどうかを確認しています。
この調査結果を基に「空き家・空き地マップ」を作成しています。
「いずみサロン」もこの調査の中で把握された空き家の中から誕生しました。
現在も町内に約5%ある空き家・空き地を利用して何ができるかを検討するために、今泉台町内会、NPO法人タウンサポート鎌倉今泉台、横浜国立大学、鎌倉市の四者で構成された「継続居住研究会」を月1回のペースで開いています。
調査メンバーが一軒ずつ回って確認するという入念な作業だ
空き家・空き地の状況を知るために大切なことは?
丸尾 基本事項としては、調査メンバーを固定化して、毎年判断基準がぶれないようにすること。
それから、調査は必ず徒歩で回り、一軒ずつ目で確かめていくことが重要ですね。
また、定点調査になるように必ず毎年6月の1ヶ月を「空き家調査月間」としています。
ちなみに、2020年6月時点の調査では89戸が空き家となっていましたが、実はここ8年間で空き家・空き地ともに減少傾向にあるんです。
減っている理由については、まだ不明なのですが、私たちの活動が空き家・空き地の減少に貢献していると嬉しいですね。
地域貢献や収益確保の先進事例として注目を集める画期的な取り組み
運営資金の行政支援は受けていないということでしたが、資金面においてどのように活動を継続されていますか?
丸尾 まずNPO会員約200人から徴収する会費があります。
それから先ほど挙げた「いずみサロン」の賃貸収入や、サロンの使用料、また草刈り・枝払いなどの対価として得ている報酬があります。
また、マルシェや文化祭を開催した際の、農作物の売上や作品の陳列料なども欠かせない財源となっていますね。
町内会とも連携しながら緑の保全事業をおこなっている
そして、最も大きいのが「鎌倉リビングラボ」です。
これは、今泉台町内会と共に産学官民が協働して新しい技術やサービスを開発していくオープンイノベーションで、NPO法人タウンサポート鎌倉今泉台も立ち上げた当初から参画しています。
このリビングラボには、東京大学の高齢社会共創センター、鎌倉市、今泉台町内会およびNPO法人タウンサポート鎌倉今泉台、そしてさまざまな会員企業が集まっています。
生活者目線の要望として私たちの意見をヒアリングしてもらい、大学で研究して、メーカーが試作品を作る。
それを住民が試用してみて問題点を伝え、また改良していく……というサイクルを繰り返していき、商品化するわけです。
リビングラボに参画することで年間約60万円の協力費をいただいています。
これがNPO活動を安定的に継続できる源泉となっているといえるでしょう。
2019年8月には鎌倉リビングラボの成果第一号としてテレワーク家具が商品化された
今後の課題や解決すべき悩みなどはありますか?
丸尾 一つには独居のお年寄りが抱えている買い物や送迎、介護などの困り事の解消があります。
こちらはNPOとしてサポート体制を作ろうとしましたが、組織として人員確保が難しい面があり、運用に至っておりません。
もう一つ、「人材バンク」の構築も試みています。これは定年退職された様々な知識や技術を持っている人材を集めて、その経験を地域の中で活かしていただくものなのですが、個人情報管理などの理由でなかなかうまくいっておりません。
また以前には、独居のお年寄りがいる家をシェアハウスにして、学生に住んでもらう取り組みを行いましたが、卒業とともに退居してしまうためこれも継続的な取り組みには至っておりません。
新たな若い人の参加と活動の継続が一番の課題ですね。
これから「いずみサロン」を中心とした今泉台住宅地区をどのような場所にしていきたいですか?
やはり「どうしたら今ある家を空き家にさせないか」という工夫が必要です。
まだまだ若い人たちが集まらないという現状がありますが、近年小学校の生徒数は年々増えています。
鎌倉市内では今泉台地区の土地価格は安い方ですから、活動を通じて子ども・孫世代が戻ってきたいと思える住みよい町にしていきたいですね
NPO法人タウンサポート鎌倉今泉台が運営する「いずみサロン」がオープンしたことで、地域住民の交流が活発化している今泉台住宅地区。
産学官民が協働して新しいモノやサービスを開発していくオープンイノベーション「鎌倉リビングラボ」への参画など、先進的な事例として注目を集めています。
子ども・孫世代が戻ってきたいと思える住みよい町にするための画期的な取り組みが、今後も期待されます。
詳細調査データ
物件について
- 所在地:神奈川県鎌倉市今泉台
- 構造・階数:木造・2階建
- 建設時期:昭和49年、平成27年一部増改築
- 改修工事:有
資金について
- 財源・運営資金:利用者料金/家賃/寄付/鎌倉リビングラボ参加協力金/その他
- 運営費補助金:無
- 設置費補助金:有(100,000円)